◎ 1991年 夏 自然の王国 カナダ漫遊 １
カナダって、どんな国だろうってずっと思っていた。どんな動物がいて、どんな自然があって、どんな人が生活しているのだろう。自分のまわりにはわりと、カナダへ旅行したことのある人が多くて、皆一様に、素敵なところだったと言っていた。
カナダって、どんな国だろう。夏になって、テント持って、カナダへ行ってみたんだ。
7月25日（木） 朝9時頃家を出る。今回は自転車を置いていった。ニュージーランドでの体験は楽しかったけれど、カナダは広すぎるって印象あるし、自転車で走っていて、熊に襲われないだろうかって、変なこと考えたし、今回はとりあえず、キャンプしに行こうってことにした。自転車なしの海外旅行はこれが初めてで、重い荷物も軽く思われた。
夕方4時出発のはずの飛行機は、一時間近く遅れて出た。シアトルで米国入国審査。この頃日本ではもう明日になっているのだけれど、こっちはまだ午前8時。得をしたのだかなんだか、とにかく生涯で最も長い一日だ。シアトルからバンクーバーへ向かう飛行機の出発もまたいくらか遅れた。バンクーバーに着いたのは昼過ぎ。ＶＩＡステーションへの道のりを聞いて、しかしよくわからないままバスに乗って、それでもなんとか迷わず駅に着いた。ジャスパー行きの列車の発車時刻まではずいぶん時間があって、ぶらぶらと時間つぶすのに困った。列車は、混むのかと思っていたけれどそうでもなく、ちゃんと座れた。日本のグリーン車並の自由席だ。列車もやはり出発は遅れた。席について、すぐ、眠れた。
26日（金） 7時頃目が覚めたかな。朝食は車内でサンドイッチとコーヒーを買って食べた。昼食は食堂車へ行って、それでもやはり、サンドイッチのコースみたいなのを食べた。列車の中では本読むか、寝るかだった。そう、やたらと眠たいの。
ジャスパーには定刻より早く着いた。と思っていたら、また一時間の時差で、時計を早めるんだって。ジャスパーは、いかにも山の中の町だという印象。キャンプ場へはどう行けばいいのかと聞いてみたら、バスは途中までしかなくて、しかもまだ一時間くらい待たなくてはならないってんで、バス停探してウロウロしていたら、タクシーが、何か？って聞いてきたから、タクシーでキャンプ場まで行っちゃった。
キャンプ場は、さすがに大陸のキャンプ場って感じ。森の中だし、よく見ると、どの木にも、熊（？）が爪を研いだ跡があるし、鹿か何かの糞はあちこちにあるし、リスは走り回っているしで、さすがカナダだと思った。まず受付に行ったときに、「ロープは持っているか？」って聞かれた。洗濯物用にと思って、持っていたから、ありますなんて言っちゃったけれど、その後の説明が、俺にはよくわからなかった。でも、自分のサイトに行ってみて、どういうことか、わかった。食糧をテントから離してつるす、専用のつるし場があって、ロープはそれに使うのであった。それは、テント内に食糧を置いていると、熊に襲われてしまうからで、受付でもらった「YOU
are in Bear Country」のパンフも頷けると思った。シャワーとかはあるけれど、近くに売店などはなく、町まで買い出しに行くのはちょっとおっくう。しかし何しろ、テント張ってゴロッとすれば、ちっとは人心地がつく。何か鳴いているようで、よく観察すると、それはリスだった。テントサイトには、薪を焚く所があって、夜はそこで火を起こして、持ってきたインスタントのカレーを作って食べた。火を起こすのは、やたらめんどうだったけれど、とってもキャンプしている気分。夜までずっと明るくて、気がつくと9時頃で、シャワー浴びて寝た。
27日（土） 6時頃起床。貴重品だけ持って、町まで歩いて出かける。一時間かかっちゃった。食事して、それから、あちこちの店で、プリムスのガスカートリッジがないかと探して回ったけれど、キャンピングガスのしかなかった。他に用もないので、ちょっと買い物して、キャンプ場に戻る。途中の道路脇で、大きな鹿（エルク）が草を食べていた。
キャンプ場についたら雨が降ってきて、しばらくテントに避難。4時から2時間くらい、そのまま寝ちゃった。雨やんでから、なんとか火を起こして料理しようと悪戦苦闘する。薪が湿っちゃっているし、火を起こしている間もパラパラと雨降るしで、ほんと大変だった。それでもなんとか、コーヒー入れて、五目ピラフ作って、ベーコン焼いて食べたもんね。で、買っておいた残りの食糧は、つるしておいたってわけ。9時半になっても、まだ明るい。テントの中ちょっと片付けて、10時過ぎに寝た。
28日（日） 7時起床。夜のうちは雨で、しかしなんとか、朝から日が差してくる。朝、トイレに行ったら、いきなり、エルクに道をふさがれて、ビックリ。エルクの方もビックリしたみたいで、ちょっと怒っているようで、怖かった。鹿よりも気の小さい、俺。雨上がりのせいか（？）、今朝はあちこちに、エルクが出没していた。
今日も歩いて町まで。今日と明日の、バスツアーのチケット買って、午前中は暇をもてあましてしまった。それで、昨日買い物した店で働いていた女の子を夕食に誘おうと、意を決してその店に行ったのだけれど、残念、今日は違う子だ。
1時に、バスディーポ発のバスツアーに出る。メディスン・レイクと、マリーン・レイクへと向かう。ツアーの、ガイド兼運転手は女の人で、しかしそのほとんどの英語は、聞き取れなかった。マリーン・レイクという所は、ロッキーを代表する湖らしく、なかなか見応えがあった。ボートに乗ってのクルージングもあり、楽しかった。天気も、まあ快晴というわけではないけれど、ここ数日では最もよく恵まれたと思う。6時過ぎに、町に帰ってきた。7時半頃、キャンプ場に戻って、それから火を起こして食事。晴れてた分、少しはうまくついたかな。今日はステーキを焼く。
食べ終わった頃に、バックパッカーがやってきて、テントサイトをシェアしてくれないかと言う。ＯＫ全然問題ないよ。てことで、テントサイト料金の半分、6ドル返してくれた。ラッキー。ベルギーの人だって。とっても物静かな人で、明日また、ヒッチハイクして移動してしまうって。9時過ぎ、シャワー浴びて、明日の支度をして、寝た。
29日（月） 5時半起床。7時には、キャンプ場を出る。バスに間に合うように、タクシーを呼んだ。8時のレイク・ルイーズ行きのバスには余裕で間に合う。と、思いきや、8時に、バンフ行きのバスが出たので、レイク・ルイーズに行くのはまだかって聞いたら、もうちょっと待てって言うもんだから、ずっと待ってて、なんだか不安になって、9時頃に、「Did
I miss the bus?」て聞いたら、そうだって言われて、ガ〜ン、そりゃないでしょう。結局、1時半の急行バスに乗って、レイク・ルイーズまで行くはめになった。それまでの時間は、Ｔさんにはがき書いたりしてた。
急行バスには、無事、乗れた。バスは快調に走る。昨日から、いくつか失敗していることがあったのだけれど、窓の外の雄大な景色を見ていたら、何となく気もまぎれる。レイク・ルイーズで降りて、キャンプ場へ。歩いてすぐの所だった。とてもいい環境のキャンプ場なのだけれど、テントサイトが砂利で、ペグが刺さりにくいのと、シャワーがないのが、残念。テント張って、さて、町へ買い出しにって時に、キャンプ場の入口で日本人の自転車旅行者に会い、じゃあサイトをシェアしようってことにした。明治大学の４年生だって。なかなかいいやつだった。夕食時は、隣のサイトのキャンパーから斧を借りて薪を割って火を起こした。明治君が、ビールを買ってきてくれたので二人で乾杯した。こっち来て初めて、ビールを飲む。
天気は相変わらず良くはないけれど、明日ここにもう一泊して、のんびりしよう。
30日（火） 7時前起床。起きて、テントから出ると雲一つない快晴で、うわぁって思う。さっそく、レイク・ルイーズに出かけることにして、支度する。歩いて出かけた。車道に沿って、坂をテクテクと登って行ったのだけれど、それほどしんどくもなく、湖に到着。レイク・ルイーズ、とってもきれいな湖だった。せっかくここまで来たのだからと、ちょっと足を伸ばして、さらに山道を奥へと進んでみた。そしたら、けっこう長い道のりで、疲れたけれど、二番目、三番目の湖は、特に水が透き通っていて、本当にきれいだったし、展望もいい所で、ロッキーに来たんだなぁとしみじみ思ったりする。天気が良くて、ほんとよかった。その、三番目の湖、レイク・アグネスの小屋で、レモネードを一気に飲んで、ちょっと休んでから、下山。レイク・ルイーズからビレッジまでは、今度は車道沿いではなくて、ほとんど人も通らない遊歩道を歩いて下った。1時半頃町に戻る。レストランで昼食にした。
その後は、絵はがきや食糧を買ってキャンプ場に戻る。あんまり天気良かったので、日光浴しながらはがき書いたりしてた。夕食時は、天気良かったせいで薪も乾いてて、よく燃えた。キャンプ場のあちこちから煙が立ち上ってきて、薪のはぜるパチパチという音が聞こえ、こういう雰囲気って大好きだなぁって思う。食事終わってからもまたお湯沸かして、コーヒー二杯も飲んじゃった。でも今日は、うんと歩いて疲れているから、よく眠れそう。それに、寝袋も干して気持ちいいだろうし。明日はちょっと早くに出発だから、10時前には、寝た。
31日（水） 夜はすっごく寒かった。ちょっと羅臼の夜を思い出した。昨日の快晴に比べて、今日はまたもとの時々曇りに戻っちゃった。朝は慌てて荷物をまとめ、なんとか７時のバスに間に合う。バンフに向かう。
8時前、バンフ着。インフォメーションでキャンプ場の場所を聞いて、すぐそちらへ向かう。けど、とっても長い登りの山道で、一時間くらいかかったかなぁ。サイトは、入口の近くになって、ちょっとうるさいけれど、まぁいいか。午前中は、ボーっとしていた。昼頃、やっと町へ行く気になって、また歩いて出かける。昼飯食べて、郵便局寄ったり、買い物したりする。ステーキ肉を買って帰る。テントサイトには、丸太がゴロゴロと置いてあるのだけれど、例によって斧がなく、隣の人から借りようかどうしようか迷った。なんか、怖そうなおじさんだったから。けど、向こうの方から、丸太はどこに置いてあるんだとか、モスキートスプレー持ってないかとか言ってきて、（俺はムヒ虫よけを持って来てた！）わりと感じ良さそうな人だったので、斧、借りられた。で、ガンガン薪作って、腰疲れちゃったよ。
夜はカレーに、買ってきたサラダに、ステーキにと、腹いっぱい。雨は降りそうで降らなくて、ひとまずよかった。明日はこの辺りをぶらぶらと観光だ。今、9時半で、まだ本を読めるくらい明るいけれど、疲れているから寝よっと。
次のページへ。
「その路地を曲がって。あの地平線を越えて。」の
目次のページに戻る。