◎ 1989年 夏 岬巡り 〜日本放浪記 西日本編〜
最初に買ったバイクは、250ｃｃの中古のバイクで、それは箱根でこけたときに廃車にしてしまった。そして新しいバイクを手に入れた。このバイクが、他のどのバイクよりも美しいと思って選んだバイクだった。
オートバイに乗って走っていると、止まりたくなくなるときってのがある。エンジンを切らずに、どこまでもどこまでも走っていたいと思ったりする。そう、そんなことを思っていた時期が、あったんだ。
7月17日（月） 5時起床、曇り。家を出て、Ｒ246で沼津まで行き、Ｒ1に乗ってお昼にはとりあえず浜松まで来た。途中、新富士川橋を越えたあたりからポツポツと雨。浜松で、駅弁のうなぎ飯を食べる。箱が大きいばかりで中身はやたらと少ない！ ただ、温かくするヒーター付きというハイテク（？）弁当だった。浜松を過ぎてから、伊良湖に向かう。メロン畑の肥やしのせいで、走っていてもかなり臭い。2時頃、伊良湖岬に着いた。すっごく立派なホテルがあって、夕食はそこで食べようとしたら、お席の用意はできますが7千円からになります、と丁寧に言われてしまったので断念した。近所で、魚定食を食べた。おいしかった。伊良湖の海岸は、好きな海岸の一つ。海水浴場のトイレは汚かったけれど、少し離れると、静かで、一人で海岸で野宿するにはいい。
18日（火） 4時半起床。朝には雨上がる。伊良湖から鳥羽へ行く伊勢湾フェリーに乗る。8時出港。船の中で、自称天下無敵のプー太郎というにいちゃんと話をする。鳥羽に着いて、別れちゃったけど。鳥羽から、Ｒ167、260で、潮岬を目指す。紀伊長島なんて地名があり、ちょっとＮさんのことなんかを思い出したりする。Ｒ260は、これでも国道かって感じの、とんでもない箇所もあったりする道だ。潮岬には3時前に着いた。なんか、ちんけな灯台だった。ここは、本州の最南端なんだね。その後は、Ｒ42に乗って、和歌山を通過し、大阪の岸和田に知り合いがいるので、その人の家を訪ねて泊めさせてもらった。一日に、450ｋｍ近く走って、疲れた疲れた。
19日（水） 5時半過ぎ、知人宅を出て、7時頃には和歌山港。南海フェリーで2時間かけて四国に渡り、小松島へ。そして、Ｒ55で室戸岬へ。なんか、ボーっとしてたら通り過ぎちゃうようなところが室戸岬。灯台も、展望よくないし、やはりちんけな所だよ。（文句ばかり言ってる？）夕方まで走って、高知の海岸まで来た。テント張るところ見つけたのが6時頃だった。さすがに、桂浜は観光地だからそんなところには野宿できなくて、もう少し西へ進んだところにした。夜、太平洋の波の音はけっこううるさくて、そうして遠くに漁り火が見えた。
20日（木） 5時起床。朝の散歩をしていたおじさんが、俺のバイクの多摩ナンバーを見て、話しかけてきた。昔東京にいたんだとか、誰々が死んだだとか、やっぱり死んじゃぁダメだよねとか、朝からそんな涙ぐまれても、困ってしまった。高知を出発してＲ56を走る。ちょっと寄り道して、四万十川を遡ってみた。それから、足摺岬へ。有料道路には乗らず、狭いクネクネした道を苦労して走り、ようやくたどり着いた場所は、なかなかすごい所だった。「足摺」という意味もわかるね。今のところ、ベスト灯台。午後は、Ｒ321、56、197で、愛媛の佐田岬を目指した。途中、宇和島駅で斗牛弁当とやらを買おうと思っていたのに、売り切れていて残念。Ｒ197は気持ちのいい道路だったけれど、三崎から先はクネクネの狭い道でまた大変。でも、たどり着いた佐田岬はやっぱりなかなかの所だったので、わざわざこんな所まで来てよかったと思った。
21日（金） 5時起床。三崎港を9時半に出港する国道九四フェリーで、大分の佐賀関へ。船で一緒になったおじさんは60歳で、四国を一周しようとツーリングに出かけて来て、ついでに九州まで渡るんだって言っていた！ さて、九州まで来たら、やたら暑い！ 日に焼けた腕や首が痛いくらい。（そしてこれが、後で大変なことになる。）海岸沿いを走ろうと思って、しかしけっこう山の中を走ってて、しかもＲ388なんて、もの凄く狭い道で、無理してこの道を行くことなかったなと思った。その後、ちょっと道間違えたりしたけれど、今日は見るべき予定の所もなく、ひたすら走る日。延岡を過ぎて、宮崎を過ぎて、夜7時近くになって、日南海岸付近の海水浴場にテント張った。
22日（土） 5時起床。海水浴場に人がやってくる前に撤収。鹿児島の佐多岬を目指す。なんか、すごく遠く感じた。まさに最果てという印象。けっこう疲れた。でも、いい気分だった。九州最南端、佐多岬。そこから、根占というところまで行き、南海郵船フェリーで山川港へ渡る。枕崎で地図見ていたら、吹上浜でキャンプするといいよと言ってくれる人がいて、ついでに、温泉のあることも教えてもらった。で、温泉入りに行く。温泉の後、吹上浜に出ようとして道に迷い、走ってたらキャンプ場の看板があったので、たまにはそんな所でもいいかと思ってキャンプ場に向かった。行ってみて、テント持ち込み料400円ですと言われたのには閉口したが、ま、仕方ない。ここに泊まることにした。夜9時頃、クークー寝てたら、キャンプ場内の放送で起こされた。なんでも、「今、ウミガメが産卵しているところが見られますから、見たい人は集まってください。」だって。え、行く行く。大人げないと思いつつも起きて外に出た。そうして、このキャンプ場のどこにこれだけのガキンチョがいたのかと思うくらいの子ども達と一緒になって、ぞろぞろと浜辺に向かった。ウミガメの産卵、見たよ。人が集まってきても動じないカメのお母さんは、やはり本当に泣いていた。そして、カメを見ようと押し合いへし合いする子ども達の、カメを見つめる顔を見ているだけでも、おもしろかった！
23日（日） 4時半起床。5時半出発。今日も晴れて暑い。長崎を目指す。Ｒ3、389で北上し、黒之瀬戸大橋を渡って長島の蔵之元ってところへ。天草鹿児島国道フェリーで牛深に渡り、さらに北上して、鬼池ってとこから島鉄フェリーで長崎の口之津へ。長崎に入ったら、なんかとたんに道が混みだした感じがする。3時頃、長崎駅に着いた。これくらい大きな駅だったら、一日中開いているかな、とか思って、今日は駅で寝ちゃおうかなと考えている。夜になって待合室でうとうとしてたら、お巡りさんがやってきて、ここは12時で閉まっちゃうよと教えてくれた。あらら。仕方がないから、駅舎の外に出て、シャッターの降りたすぐ前で、寝袋に入って横になっていた。けど、やっぱりよく眠れなかった。
24日（月） 「こんな所に人が寝ている！」という声で目を覚ました。仕事帰りのおかまさんだった。2時頃だったかな。「大変そうねぇ。いいから家にいらっしゃいよ。大丈夫よぉ、何もしないから。」「そうぉ、じゃ、気をつけなさいよ。あんたね、長崎に来たならこことこことここを見て回るのよ。」・・・。観光ポイントまで教えてくれて、おかまさんは去って行った。いい人だったのかもしれない。泊めさせてもらったら、人生変わってたのかなぁ。・・・。結局それからもよくは眠れず、
4時には起きて支度した。荷物はロッカーに預けたままにして、阿蘇に向かうことにした。多比良、長洲間の有明フェリーで熊本に渡り、熊本市内を抜けて阿蘇登山有料道路を通る。阿蘇山を見てきた。帰りは、ちょっと道に迷ったり、長崎への道が混んでて暑くてイライラしたりで、かなり疲れた。肩の日焼けの所を気にしていたら、ベロリと皮がむけちゃった。夜はさて、どこで寝ようかと思って、すみません、平和公園の植え込みの中にテント張っちゃいました。
25日（火） 4時半起床。今日はひたすら走るだけ。Ｒ206から202へ、福岡を通り過ぎてＲ3へ、そして関門国道トンネルを抜けて本州へ。下関では、駅に寄って「ふく弁当」を買った。Ｒ191に入って、あちこちの海岸を見て回ったのだけれど、なんかお金取られそうなキャンプ場ばかりで、テント張るところ探すのに苦労した。長門の近くの何もない浜辺で野宿。
26日（水） 5時頃起床。6時出発。国道はすいていてグングン走れた。益田駅にはすぐ着く。浜田を過ぎて、温泉津温泉（読める？ ゆのつ温泉）て所があったので、午前中から温泉に入る。で、お昼前には予定していたところに着いちゃった。時間つぶしに、出雲大社を見てきた。それから日御碕って所にも寄って、十六島湾の浜辺にテント泊。
27日（木） 4時半起床。5時半出発。今日も暑い。雨に降られたのは結局、四国にいたときが最後じゃないか？ 朝の宍道湖を眺めながら松江を抜け、ちょっと地蔵埼ってとこの美保関灯台を見てきた。それから大きな橋（境水道大橋）を渡って米子へ。駅弁がうまかった。鳥取まで来て、もうあんまり暑くて、荷物持って移動するのが嫌だったので駅のロッカーに預けて、砂丘見に行ったり、温泉にも入りに行った。鳥取砂丘は、やっぱりなかなかおもしろいところだった。夜は、砂丘の隅の隅の方で野宿。しかし、夜中までどこかで花火の音がしていたのと、暑くて、火傷のようになった日焼けがヒリヒリ痛いのとで、ちっとも眠れなかった。
28日（金） 4時半起床。う〜ん、疲れている。何度も休んで水分とりながら行く。経ヶ岬という所を回って、天橋立へ。駅で弁当を食べているときに、そこに、7年も托鉢しているという臨済宗の坊さんがいて、ちょっと話をした。それからすいている道をスイスイ進んで、1時過ぎに敦賀に着いて食事。その後は越前岬へ向かったのだが、崖崩れがあったとかで国道は通行止めになっていて、仕方なく山道へ迂回したらキャンプ場を見つける。水道やトイレは使用できるようになっているのだけれど、誰もいない。探すと、草刈りをしているおじいさんがいて、本当は許可がいるのだけれど朝帰っちゃうのならいいよと言ってくれた。ありがとう。夕方は水道で洗濯までしちゃいましたとさ。
29日（土） 4時半起床。5時半出発。Ｒ305、8、159、249を通って、ひたすら能登半島を北上する。2時頃に、輪島に着いた。さらに進んで、珠洲岬の禄剛崎ってとこにある灯台を見に行った。その後は、テントを張る所を探すだけだったのだけれど、なんか山の中で、夕方にもなってくるしで、ちょっと焦った。でも、結局やはり海岸で、小さな海水浴場があって、そこにテント張った。夜、近くでキャンプしていたグループが誘ってくれて、焼き肉とかビールをごちそうになった。石川の無線仲間なんだって。ごちそうさまでした。
30日（日） 4時半起床。午前中には富山、高山と抜ける。高山は、好きな町の一つで、いつかゆっくり泊まってみたいと思っている。今日は平湯まで行けばいいかなと思っていたけれど、お昼には着いちゃって、で、温泉入ってから松本を目指す。Ｒ158の安房峠を越えて、松本へ。公園にテント張って寝た。
31日（月） 5時起床。6時出発。松本の朝は寒かった。今日久しぶりにポツポツと雨になったけれど、すぐやんだ。Ｒ20を通って東京に帰る。お昼頃、家に着いた。あ〜、疲れた。洗濯したり、バイクいくらかメインテナンスしたりする。旅の途中、あちこちの郵便局でお金をおろしたから、通帳はたくさんのスタンプが付いた。それから、あちこちから一日おきくらいに、今好きな子に絵はがきを書いたっけ。帰ってきたけれど、まだ、会ってない。
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「その路地を曲がって。あの地平線を越えて。」の
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