◎ 1990年 3月 悲しき中国 ２ 広州〜桂林〜岳陽
３月４日（日）８時半頃起床。相部屋の人と一緒にホテルの外へ朝めしを食べに行く。日本語を話せることがこんなに楽しいことだとは思わなかった。朝食は、汚い食堂でパックに入った弁当やらおかずやらを食べた。しかし、量が多くて残す。ご飯はパサパサしていてうまくない。中国人は米の炊き方を知らんのか！と二人で話す。おかずも妙な味付けで、ちょっとうんざりだったし。一度ホテルに戻って、昼前に彼と別れた。これから日本に帰国するという彼は、もういらないからと、鉄道の時刻表をくれた。ありがとう。
さて俺は、桂林までの切符を買いに広州駅へ。しかしもの凄い人混みだぁ。切符はいったい、どう買ったらいいものか、百年かかるのではとさえ思われた。すると、見るからにいかがわしい人が傍に来て、代わりに買ってやるようなことを言う。初めはふっかけられたので断ったけど、どうしようもなくなり、次に気のよさそうな中国人がそう言ってきたら頼むことにした。と、その時気付いたんだけれど、なんと、ザックの底が切られていて、中にあった下着の入ったバックと、あと小銭入れも盗まれてしまっているではないか！ ガ〜ン。お金の被害は大したことないんだけれど、ザックに穴を開けられたのはショックだった。（今思うと、声をかけてきた中国人もスリの仲間だったのでは？）困っている時に声をかけてくれる人は皆、親切な人のような気がするよ。桂林行きの切符は、また違う人に頼んでなんとか手に入れてもらった。その後、（ザック補修のための）ガムテープを探しに街に出て、中国のスーパーマーケット（のような所）にも入ったけれど見つからず。でも、下着は買えた。めちゃへんてこだけれど。そうこうしているうちに時間が来て、火車の出発２時間前には駅で待つ。切符は人民料金で買ったものでドキドキしたけれど、特にチェックされることもなかった。夜行の硬座＜後注・火車の座席の種類は、１等寝台に当たる「軟臥」、普通寝台の「硬臥」、昼間の短距離列車にしかない「軟座」、中国人民に最もポピュラーな「硬座」。＞はしんどかった。
５日（月）席が隣り合わせになった中国人が桂林のホテルの人とかで、親切にしてくれて、うちに来ないかと言われる。少々高いがまぁいいかと考え始めると、桂林駅近くになって、中国人の学生（温くん）が日本語で話しかけてきて、彼が安いホテルを紹介してくれるというので、彼に付いていくことにした。14 時過ぎ、桂林着。ホテルに入ってすぐに、ホテルの人（劉さん）も一緒に、桂林の観光地を案内してくれた。その後、山水画の先生（？）の家へと連れて行かれ、話を聞くうちに、こりゃ絵を買わされるなと思ったけれど、あちこち案内してもらって、中国人の家庭にもあがれて、山水画を描くところも見られて、だからお土産に買ってもいいやと思い、掛け軸を買った。（まぁ、買わされた、だけど。）
夜は、温くんと劉さんと三人で夕食をとり、酒も飲んで楽しかった。レストランではなく露店と言ってよい店で、タライの鯉や籠の鶏が、すぐに裏で料理されるんだなぁという感じだった。注文は劉さんに任せたが、鯉料理が出てくると、「目がおいしいから平井さんは目を食べてよ。私は身を食べるから。」なんて真面目に言う。ちょ、ちょっと待ってよ〜。でも、中国料理をちゃんと食べたのはこっちに来て初めてかも。おいしかったぁ〜。料理はやっぱり、楽しいとおいしいんだな。
宿の部屋に戻って、友達に手紙を書く。ドミトリーの部屋で一緒になったのは、外人さんだった。今、22:45p.m.
６日（火）７時半頃には起床。８時から、桂林名物漓江下りへと向かうバスに乗る。舟では、日本人観光客や、新婚さんらしい上海からのカップルさんらと一緒だった。景色は確かに素敵で、写真もバシャバシャ撮っちゃった。＜こちらは、魚を売りに来た鵜飼いのおじさん。＞昼食にはビールも出て、まぁ、127元と高いけれど、そんなところかなとも思った。16時前にはホテルに帰った。
ホテルでは、日本人の女の子二人組と会う。それで、その二人と、更に昨夜遅くに相部屋になった男二人と、昨日のメンツと、更にホテルの従業員二人を加えた９人で、夕食に繰り出した。いや〜楽しかったぁ。・・・のだと思う・・・。俺、酒飲んで、酔っぱらって、記憶がない！！！
７日（水）朝早くに一度目が覚めた。あっれ〜、こんな格好で寝てらぁと思う。で、ハッと気が付くと、ガ〜ン、財布をなくしている。ショックだった。食事をしている途中までしか覚えてないや。・・・。（分けて隠してあるから全額なくした訳ではないので）お金は仕方ないとしても、財布がないとやっぱり不便だなぁ。・・・。８時過ぎて、二日酔いでフラフラしながら街へ出る。劉さんや温くんと会えたので、財布のことを話し、温くんともう一度ホテルへ戻ると、あぁなんと、財布は部屋に落ちていたんだって。よかった。学生証が入っていたから、すぐに返してもらえた。で、その後は温くんに自転車を借りて、市内観光へ出かけた。二日酔いだったので何も食べずにいた。
鍾乳洞のある公園へ行ったあと、展望のいい所で一休みしていると、デンマークからというカップルと出会う。下手な英語でいろんなことを話した。ちょっと一緒にお茶してから、別れる。あとは暇をつぶしてからホテルのロビーでみんなを待っていた。18時くらいからだったか、女の子二人と、劉さんと温くんともう一人ホテルの人と、それから新しくやってきた日本の学生二人と、８人で夕食になった。今日はあんまり飲まないようにと釘を刺されて飲めなかったけれど、一緒に日本の歌を歌ったり（「乾杯」！ やっぱ長渕でしょ。）今夜もとっても楽しかった。で、火車の時間に間に合うか心配になるまで騒いでいて、その後もみんなで駅まで送りに来てくれたりで、感激だった。座れるか心配だった座席にも座れたし、桂林は本当に、楽しいところだった。
８日（木）岳陽へは１時間遅れて着くものかと思っていたら、だいたい時間通りだったのでビックリ。昼前には到着した。ホテルを探して街を歩いたのだけれど、結局、駅前に戻ってそこのホテルにした。１泊12元のシングル。風呂もあるんで喜んだが、お湯がぬる過ぎてとても入れない。午後は切符を買っておこうと思って駅へ行ったが、人民幣を受け付けてくれずがっかり。桂林で調子に乗って、温くんとチェンジ・マネー＜後注・兌換券と人民幣を交換すること。基本的には非合法なこと。一般の中国人民は、そもそも兌換券を手にする機会がないわけで、それがないと買えない品物を手に入れることも出来ない。なので彼らは、兌換券優位の交換率で、チェンジ・マネーを持ちかけてくる。ただこの時、温くんとは、同率で交換した。大量の人民幣は、使い切る以外にない。＞なんかしなければよかったと思ったけれど、仕方ないや。銀行を探して両替して、あとは買い物したり、うどんを食べたりしていたら、駅の窓口は閉まってしまった。
ホテルに戻って一人になって、まずＹちゃんに手紙を書こうと思ったのだけれど、なんか真面目な話しか出て来なくて、こんなのとても出せないやと思って母さん宛にした。そしたら書いてる途中で、いろんなことが頭に浮かんできてしまって・・・。げげっ、ホームシックって奴？ まさかね。でもなんだか寂しかったりした。天井が高くて広いこの部屋も、水しか出ない風呂も、みんな悲しい・・・。手紙を書き終えて、今日はもう寝ようと思って、ちっと身体洗って、寝る。21:40p.m.
９日（金）７時半頃起床。曇り。朝、まずラーメンを食べた。駅前で威勢のいい声で、「ラーメンパー、ラーメンパー、ラーメンパー、ラーメンパー！」と、手打ちの麺を作っているのでそれにつられて。辛いけどうまかった。それから、岳陽楼へと向かう。デーンとした建物がただあって、でもけっこう地元からの（？）観光客とかは来ていたみたい。この、岳陽楼に登るために、岳陽に来てみたかったんだ。
昔聞洞庭水
今上岳陽楼
呉楚東南圻
乾坤日夜浮
親朋無一字
老病有孤舟
戎馬関山北
憑軒涕泗流 （「登岳陽楼」杜甫 ）
その後、郵便局を探しに街を歩くも、見つからず、腹も減ってきて倒れるんじゃないかと思った。橋の上で人だかりがしていて、何かと思ったら捨て子だった。中国は一人っ子政策をとっているから、二人目の子供は、戸籍に入れてもらえないまま育てられるか、捨てられるか、始末されるか・・・と聞いたことがある。帰りにまたその橋を通った時には、その赤ん坊はもういなかった。岳陽の街は埃っぽく、昨日は水のような風呂を浴びただけで寝たせいか、喉が痛く、すごく喉が渇く。昼になってどうしようもなく食堂へ。わからないままに注文したのが、15元とあってどんなものが出てくるかと思っていたら、メニューの字の如くそれは鍋で、けっこううまいし野菜も入ってて、ちっとは元気が出た。一度ホテルに戻って友達に手紙を書き、それからまた郵便局を探して歩いたのだけれどダメ。ちゃんと聞いているんだけれど、発見できなかった。それで、パンとペプシを買って帰る。夕方はそれを食べて、あとはずっと旅行の計画を練っていた。
今、出ないと思ってたお湯を待っていたら、熱くなってきたので嬉しい！ なるほど、そういう仕組みか。今日は風呂入って、温まって寝るぞ。今まだ、20:10p.m.
10日（土）８時頃起床。ていうか、起きて支度していたらホテルの人が勝手に部屋に入ってきたので、仕方なく出る。曇り。ちょっとブラブラして、湖の方へ行ったら雨になる。駅でずっと雨宿りしていた。朝、ラーメン。昼、うどんみたいなものを食べ、雨が上がってからまたお金を作りに銀行へ。すっごく腹減ってきて、包子とか食べた。夜は、昨日行った店でまた一人、鍋を食べる。そしたらとっても歓迎してくれて、包子もおまけしてくれて嬉しかった。岳陽であったいいことは、それくらいかなぁ。でも、お店の人といろいろ筆談したりして、楽しかった。
火車は23時半出発で、眠いし、喉痛いしで、しんどかった。
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「その路地を曲がって。あの地平線を越えて。」の
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